ジストニアとは


●ジストニアとは、脳の障害により不随意に筋肉が収縮する難治性の運動障害です。

・Dys(異常)+tonia(筋緊張)=Dystonia(ジストニア)が名前の由来です。

・自分の思い通りに体を動かせず、意に反して体が動き、異常な姿勢や動作になります。

・平常な装いを強いるほど、肉体的に大変つらい状態となります。

・気の持ち方などにより、緩和、悪化の何れの方向へも影響します。

・体のどこかへ触れたり、ある姿勢により、一時的に症状が軽減することがあります。

・ジストニアにより知能は侵されず、視力や聴力など感覚機能にも障害は起きません。

・生命に関わる疾患ではありませんが、肉体的、精神的に大きく苦痛が伴います。

 

・効果的な治療を求め続け、根気よく生活していると、最終的にジストニアは治ります。

 



● ジストニアには、具体的に次のような症状があります。
 ・首が上や下、左や右に傾く
 ・首がねじれる
 ・足がねじれる
 ・身体が歪む
 ・まぶたが勝手に閉じようとする
 ・口が開いたままで閉じられない、閉じたままで開けられない
 ・唇が突き出る、あごが左右や前にずれる
 ・舌がくねくね動く、口の外に出る
 ・声が出ない、出しにくい
 ・鉛筆や箸が持てない、持ちにくい
 ・字が書けない、書きにくい
 ・ピアノ・ギターなど特定の楽器が弾けない、弾きにくい
 ・卓球・ゴルフなど、スポーツで特定のレシーブやスウィングができない、しづらい
 ・急に走り出すと手や足が動かなくなる、動かしづらい


● ジストニアの臨床症状の特徴は
 ・常同性(stereotype)…異常な動作や姿勢のパターンは一定で、反復・持続します。
 ・動作特異性 (task-specificity)…ある特定の動作のみに伴って症状が現れることが多くあります。
 ・知覚トリック (sensory trick)…感覚刺激により、一時的に症状が軽減することが多くあります。
 ・早朝効果(morning benefit)…起床後しばらくは症状が軽いことが多いです。
 ・オーバーフロー現象(overflow phenomenon)…動作時の環境で症状が増強されることがあります。
 ・フリップフロップ現象(flip-lop phenomenon)…何らかのきっかけで急に増悪、もしくは軽快することがあります。


ジストニアの分類として

● 部位別には
 ・全身性 (generalized) ジストニア…主に幼少期から発症する
 ・局所性 (focal) ジストニア…痙性斜頸、眼瞼痙攣、書痙、痙攣性発声障害など
 ・分節性 (segmental) ジストニア…局所性ジストニアが隣接領域に波及する
に分類されます。

● 原因別には
 ・遺伝性ジストニア…主に「DTY+番号」で分類、父親からのみ遺伝する病型もある
 ・特発性ジストニア…原因不明の原発性(遺伝子異常を含む)
 ・後天性ジストニア…原因が分かっているもの(二次性)、別の疾患やケガが元になっているもの
 に分類されます。

● 発症年齢別には
 ・20歳前・・・小児期から発症する全身性ジストニア
 ・20歳後・・・成人した後に発症する局所性ジストニア
 に分類されます。

● ジストニアの原因は
 ・特発性ジストニアの場合、病理学的研究では脳に明確な異常は認められていません。
 ・他の疾患の後遺症として二次的に起こる場合には、MRIやCTの検査により、大脳基底核の中(特に淡蒼球)に病変が見つかったり、病理学的変化があることがあります。
 ・二次性ジストニアにおいて病変が大脳基底核にあるので、特発性ジストニアにおいても脳の同じ部分が侵されるものと考えられますが、いまだよくわかっていません。

● ジストニアで病院にかかるときの専門の科は神経内科です。
 ・神経内科は、脳や神経、筋肉の疾患を扱う科です。
 ・脳外科、心療内科、整形外科、リハビリテーション科、眼科、耳鼻咽喉科など、他の科においても診療することがあります。
 ・ジストニアは比較的まれな疾患で、多くの医師は症例を見たことがありません。ジストニアについての十分な知識を持ち、診断、治療ができる医師は少ないです。
 ・ジストニアは視診、問診で診断されますが、必要に応じて触診、頭部のCTやMRI、脳波、筋電図、血液でも検査されます。


症状別には(主なもの)...

● 痙性斜頸(けいせいしゃけい)
 頭頸部の筋緊張異常により頭位に異常を生じる局所性ジストニアです。正式名は頸部ジストニー。"痙性斜頸"とは、保険適用の関係で作られた単語とのことです。
 ・具体的な症状…頭部の回旋、側屈、前屈、後屈、下顎前突、肩挙上
 ・症例では、症状を複数合併する場合があります。また、側彎や躯幹のねじれ、振戦や頸部痛を伴う例もあります。
参考:痙性斜頸の内科治療 について

● 書痙(しょけい)・上肢ジストニア・職業性ジストニア
 書痙・上肢ジストニアは、上肢の筋緊張異常により、巧緻運動障害をきたす局所性ジストニアです。
 ・具体的な症状…痺れ、震え、こわばり、脱力
 職業性ジストニアは、音楽家、職人など過剰に繰り返し同一の作業を行うために、上肢が筋痙攣を起こし、動かなくなったり、動いてはいけない指が動いてしまいます。また同様な理由により口部に起こる職業性ジストニアもあります。
 ・上肢ジストニアを生じる職業…音楽家(ピアニスト、バイオリニスト、ギタリスト、打楽器奏者など)、ゴルファー(イップスyipsという。パットが打てない等)、タイピスト、画家、時計・金細工等の職人など
 ・口のジストニアを生じる職業…音楽家(フルート、トランペット奏者など)
 ・病因は過剰な骨格筋使用により脳の感覚の代表野が拡がるために、感覚情報処理の異常が起こると考えられています。

● 眼瞼痙攣(がんけんけいれん)
 両側の眼輪筋に不随意に攣縮が反復出現する局所性ジストニアです。
 具体的な症状(初期)…下眼瞼部のピクピク感、眼瞼の刺激感・不快感、まぶしい、まばたきの回数が増える
 具体的な症状(進行)…上眼瞼部に進行、眼瞼が頻繁に攣縮、開瞼障害

● 痙攣性発声障害(けいれんせいはっせいしょうがい)
 喉頭や声帯の筋肉に影響する局所性ジストニアです。
 具体的な症状
 ・声帯内転型…発声中断、力んだ声、声がしゃがれる、声量が小さくなる、呼吸困難
 ・声帯外転型…声が低くなる、息が漏れるような声、音声がかすれる、声が出ない

● メイジュ(Meige)症候群
 眼瞼痙攣に顔面、口、下顎、咽頭、喉頭、頸部など他部位のジストニアを合併する疾患です。
 眼瞼痙攣は特に疼痛を伴う疾患ではありませんが、メイジュ症候群の場合には疼痛を伴い、顔面の変形を来すことがあります。

● 音楽家のジストニア(音楽家のフォーカルジストニア)
 楽器を演奏するときの手、指先のほか、顔、顎、口腔の形や声帯(喉頭)など、さまざまな部位で起こりえます。ドラム演奏者の足やホルン演奏者の首に起こることもあります。
 ・音楽大学生を対象としたアンケート調査では、1%以上の学生に、演奏時にジストニアが出現したとの回答結果がある
 ・外来を受診した楽器演奏者の8%に、ジストニアを認めたとの報告もある
 ・ある特定のパートを演奏、歌唱するときにのみ、ジストニアが出現することもある

● 全身性ジストニア
 体幹とその他の2部位以上にジストニア症状がある場合の全ては、全身性ジストニアとなります。

 ・早期発症捻転ジストニア(DYT1遺伝子異常を伴うジストニア)
  早期発症捻転ジストニアは、特発性の全身性ジストニアで、常染色体優性遺伝性のことが多く、また時折、遺伝素因なしでも起こります。
  通常5~15歳に歩行時の足の内反および底屈で発症します。
  まれな進行性の症候群で、背中・首・腕など身体の別の部分にも広がります。
  動作が中断し、しばしば奇妙な姿勢を固持する特徴があります。

 ・瀬川病(DYT5遺伝子異常を伴うジストニア)
  瀬川病は、特発性の全身性ジストニアで、常染色体優性遺伝性です。
  10歳以下に発症しますが、30歳代以降はほとんど症状は進行しません。
  女児に多い。
  日内変動…夕方増悪し睡眠で改善します。

● 二次性ジストニア・類似疾患

 ・遅発性ジストニア《薬剤性のジストニア》
  主として抗精神病薬の長期投与中(数か月~数年)に起こり、ドーパミン遮断作用をもつ抗うつ薬、抗めまい薬、制吐薬、胃腸薬、カルシウム拮抗薬によっても起こることがある二次性のジストニアです。
  病因はドーパミン、アセチルコリン、ノルアドレナリンなど多様な神経伝達物質の異常と考えられています。
  具体的な症状…頸部・躯幹の不規則なつっぱり・ねじれ、斜頸、後頸、後弓反張

 ・遅発性ジスキネジア《遅発性ジストニアと同じ薬剤性、ジストニアとは異なる》
  主として抗精神病薬の長期投与中(数か月~数年)に起こり、ドーパミン遮断作用をもつ抗うつ薬、抗めまい薬、制吐薬、胃腸薬、カルシウム拮抗薬によっても起こることがある薬剤性の異常不随意運動です。
  病因は脳内のドーパミン受容体の過剰反応と考えられています。
  具体的な症状…繰り返し唇をすぼめる・尖らせる、舌を左右に揺らす・突き出す、口をモグモグする、歯をくいしばる、瞬きを繰り返す、額にしわを寄せる、肩をひそめる、しかめ面をする、手指を繰り返し屈伸する、腕を振り回す・ねじる、足踏み、体をゆする・くねらす・ねじる、呼吸困難、不規則呼吸

 ・固定ジストニア(fixed dystonia)《ジストニアの類似疾患》
  交通事故や転倒等の脊髄の外傷が誘因で脊髄から異常信号が出て、手足・頸部・顔面が硬直します。
  「機械的な原因で、四肢が固くなる症候群で、異常な姿勢を取るジストニアに似た状態」と2004年にSchragらが“the syndrome of fixed dystonia"として発表しました。
  複合性局所疼痛症候群(CRPS)または心因性ジストニアと重複することがあります。
  一般的なジストニアの原因とされる大脳基底核には病変がないことが多い
  罹患部が固定し、知覚トリック効果が得られない

そのほかにも、、、
 舌ジストニア、口顎部ジストニア、呼吸性喉頭ジストニア、片側性ジストニア、心因性ジストニアなど、さまざまな種類のジストニアがあります。


● おもな治療法

 ≪内科的治療法≫
   内服薬療法
   ボツリヌス毒素療法
   MAB(Muscle Afferent Block)療法

 ≪外科的治療法≫
   定位脳手術
   甲状軟骨形成2型
   選択的末梢神経遮断術
   筋切除法
   反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:rTMS)

 ≪その他の対処法≫
   バイオフィードバック療法
   鍼治療


● ジストニア患者の現状
ジストニアは症状および病名が世間一般的ではなく、医療従事者の間でもあまり知られていません。
身体のいろいろな部分に起こり、ひとりひとり症状が違うので、どの病院のどの受診科へ診察に行けばよいのか迷います。また、脳神経疾患ですので本来は神経内科を受診すべきなのですが、ジストニアの診療をしているのは神経内科のほかに脳外科や、心療内科、整形外科、リハビリテーション科、眼科、耳鼻咽喉科など病院によって違うのが現状です。
そのため、ジストニアと診断されるまでに、いくつもの病院、受診科をまわり何年もかかることがあります。医師から「気のせい、精神的なもの」などと言われることや、誤った治療を受けて症状が悪化する場合もあります。

音楽家やスポーツ選手の場合はジストニアとはわからずに技術が低下したと考え、無理にハードな練習をして症状を悪化させることが多く、活動をあきらめざるを得ない方もいます。
ジストニアとわからずにいる潜在的患者、いわゆる”隠れジストニア”の患者数は、かなりのものではないかと思われます。

内科、外科とも、ジストニアの専門医は少ないので、診療を受けるために遠方から通院する患者は多く、泊まり掛けでの通院も珍しくありません。なので、治療費のほかに交通費・宿泊費でも、負担が膨らんでしまうのは患者の悩みです。
内科治療のボツリヌス治療は、医師の熟練度により治療効果にかなり差があります。患者はより良い治療を求めて医師を探します。そうして見つかる医師には予約が集中するので、治療までに数か月ほど待つこともあります。
一方外科治療は、定位脳手術の中でも比較的低侵襲と言われている脳深部刺激療法[DBS]があり、施術する医師も少なくありませんが、体内に植え込んだ機器の劣化などのために定期的な手術が必要となり、患者の精神的、肉体的、経済的負担は重いです。
対して同じく定位脳手術の破壊術[凝固術]では、症状が著しく改善する患者が目立ち、”確立された治療”となっていますが、そうした施術を行える医師や医療機関が極めて少ないという問題があります。その場合にも患者は、その医師の診察だけで、予約してから数か月ほど待ちます。

ある医師は、午前中だけで40人ほどの患者を診るそうです。もし仮に、1時間で12人を診るとしたら、一患者あたりの時間は5分。その中で医師は、カルテをまとめ、必要であれば処方箋を印刷し、次回の予約を入れて予約票も印刷する。それを考えると、医師と話していられる時間は3分程度。日帰り通院、泊り掛け通院に関わらず、貴重な時間です。医師とゆっくり会話ができないのも、患者にとっては残念な点になります。

患者は、ジストニア症状により就労が困難で、たとえ会社との雇用関係があってもそれをいつ失うかと不安な日々を送っています。また職場ばかりか家族からも、病気についての理解が得られにくく、退職に追い込まれて生活に困窮する方もいるし、継続して治療を受ける必要のある高額なボツリヌス治療を、家庭都合で行えない方もいます。

就労が困難なため、身体障害者手帳・障害年金の申請をしても、ジストニア症状に該当する障害規定は遺伝子性ジストニアのみで、他のジストニアについては歩行困難など一部の重症な患者を除き、認定されません。


● ジストニア患者のみなさんへ(治すヒント)
ジストニアは世間一般はもちろんのこと医療関係者にも認知度が低いために、正確な診断・治療を求めてあちらこちらの病院をまわる患者は多いでしょう。そうして正しく診断された後も、納得のいく治療を受けるには、患者と医師との信頼関係が大切です。 より良い治療を受けるには、どうすればよいか?「医者にかかる10箇条」と「いい医者の10箇条」はそのヒントになると思います。

 ・医者にかかる10箇条-あなたが"いのちの主人公・からだの責任者"
  「ささえあい医療人権センターCOML」より
  ① 伝えたいことはメモして準備
  ② 対話の始まりはあいさつから
  ③ よりよい関係づくりはあなたにも責任が
  ④ 自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報
  ⑤ これからの見通しを聞きましょう
  ⑥ その後の変化も伝える努力を
  ⑦ 大事なことはメモをとって確認
  ⑧ 納得できないときは何度でも質問を
  ⑨ 医療にも不確実なことや限界がある
  ⑩ 治療方法を決めるのはあなたです

 ・いい医者(良医)の10箇条
  「病院なんか嫌いだ」鎌田實著より
  ① 話をよく聞いてくれる
  ② わかりやすい言葉でわかりやすく説明してくれる
  ③ 薬や検査よりも、生活指導を重視する
  ④ 必要なときは専門医を紹介してくれる
  ⑤ 患者の家族の気持ちまで考えてくれる
  ⑥ 患者が住む地域の医療や福祉をよく知っている
  ⑦ 医療の限界を知っている
  ⑧ 患者の痛みやつらさ、悲しみを理解し、共感してくれる
  ⑨ 他の医師の意見を聞きたいという患者の希望に快く応じてくれる
  ⑩ ショックを与えずに真実を患者に伝えられる

「いい医者の10箇条」の著者は「10の条件全部を満たす医師はなかなかいないだろうから、2、3でも当てはまる医師と出会ったら、時間をかけて、信頼関係を大切に築いてほしい」と言っています。

基本的に医師には、「治そう」とする使命感があります。医師の説明を聞くのはもちろんですが、患者からも、自身の体の仕組みなどをいろいろ質問し、コミュニケーションを取ります。すると、治療が納得できるものになります。

内服薬があれば、その薬を知っておきましょう。例えば「お薬手帳」のメモ欄を活用して、自身への薬の効果や副作用、自身の症状なども併せて記録しておくと、医師へ説明するときに便利かもしれません。

医師が病気を治すのではなく、患者が病気を治すのを手伝ってくれるのが医師です。一緒に病気と闘ってくれる医師へ感謝することはもちろんですが、患者本人が病気から逃げず、「自分が治す」という意識を持つことが大切です。

症状がひどいときに外出を控えたりするのは当然ですが、どうしても発病以前よりも過剰に、生活が消極的になりがちです。外出は人目が気になるかもしれませんが、人は他人のことなど気にはしていません。思い切って開き直る強さも大切です。

ジストニアになると今までよりも生活が不自由で困難です。当分の間その症状と共存することになってしまうかもしれませんが、できること・やりたいことを自由にこなす意欲を持って生活します。
そうしているうちに、気づけばジストニアの症状が喪失傾向にあります。その後、もしジストニアの症状や治療の副作用が残った人の場合でも、健常者と同じに生活できる、言わば、寛解します。
そのようにして実際に治った方は、会員にも多く見ます。

是非NPO法人ジストニア友の会の交流会に参加するといいです。参加者からは「気持ちも前向きになり生活にも張りが出る」の旨をよく聞きます。
ジストニアの専門医や患者・寛解者と気兼ねなく、しかも対面で直接会話できるのは物凄く大きなメリットです。医師の見解やリアルに聞く患者の体験談など様々な情報を吸収して、ご自身の治療や生活に役立ててもらえたらと思います。