痙性斜頸の内科治療について


(赤い太字は筋肉の検索画像への外部リンクです)

 

 

痙性斜頸って治るの?

 

「けいせいしゃけい」と読みます。痙性斜頸(正式名:頸部ジストニー)は、治ります。

中には運よく数日で治った人もいました。しかし効果的な内服薬は無いし、普通はすぐに治るものではありません。数年もしくは数十年間根気よく治療を続けながら、かつ、時には症状を忘れるぐらいに明るく振舞っていると、気づけば治っています。

どう治すかは最後にも書いたので、ご参照ください。

1.内科治療での心がけ

 

内科治療では一般的であるボツリヌス療法では、自身の首の筋肉がわかると今回の治療はなぜ良かったのか、なぜ悪かったのか、さらに良くするには先生に何を伝えれば良いのか、が見えてきます。

どんなにベテランの先生であっても、疲れや機嫌で思考が変わります。100点の先生なんていない。患者の思いを全てくみ取れる、なんて先生もいない。先生は神様仏様ではないので、任せっきりではダメです。

ジストニアの場合、症状を一番よく知っているのは自分です。自分の希望を先生に伝え、間違えていたら修正してもらう、のような構えがいいです。先生に過剰に任せていては治りません。

内科治療は対処療法となりますが、治療を繰り返しているうちに脳がジストニアを起こすのを忘れ、症状が出なくなる患者は多くいます。

 

先生に分かりやすく情報提供し、自身も納得する治療をしてもらう。その為には、首の各筋肉を把握するのがベストです。

 

当時私が内科治療でかかりつけだった病院は東京女子医大、後に東京クリニック。症状は回旋と前屈。2003年から2016年まで、年に4回のペースで、合計50回程度の内科治療を繰り返してきました。そこから得た経験と先生の話を元に説明します。皆さんご自身で、首の悪さしている筋肉はどこかを把握する際の参考にしてください。

 

 

 

2.首の筋肉の基本

 

首は、前2本と後ろ2本の筋肉。この4本でバランスをとっています。

前2本は左右の胸鎖乳突筋。アゴの付け根辺りから肺へ向かって走っています。後ろ2本は左右の頭板状筋。耳の斜め後ろ下ぐらいにあって、背中へ向かって走っています。

前の2本に力が入れば首は前へ、後ろの2本に力が入れば首は後ろへ傾きます。右へ向けるには前の左側で引っ張りながら後ろの右でも引っ張ります。前の右で引っ張って後ろの左でも引っ張れば、首は左へ向きます。左右に傾けるなら左2本か右2本で引っ張ります。

ガイコツの模型に筋肉の代わりにヒモを4本つけて、引っ張って首を動かすのをイメージすると分かりやすいです。

 

 

 

3.首の筋肉と治療の説明

 

以下に説明する投与量は、ボトックスの単位で説明しています。ナーブロックでの治療する際の単位は、50倍すると求まります。

 例)10単位(ボトックス) → 500単位(ナーブロック)

 今日では、患者の金銭的な負担を減らすため、痙性斜頸の治療にはボトックスよりも安いナーブロックを用いるのが一般的になりつつあるようです。

 

3.1.胸鎖乳突筋

部位、働きは【首の筋肉の基本】を参考にしてください。

アゴの横下辺りで胸骨へ向かうのと鎖骨へ向かうのに別れます。これが胸鎖乳突筋の胸骨枝と鎖骨枝です。ボトックスを上、中、下と3箇所打った場合、下を胸骨枝へ打つか鎖骨枝へ打つかで効果が変わります。胸鎖乳突筋全体が張っている場合には、上、中、胸骨枝、鎖骨枝で、片側に4箇所打つでしょう。用いるボトックスは、最大でも片側合計60単位程度。両側へ打つ場合には合計の120単位よりも少ない量にするかもしれません。

飲食時には、がっつかず、気をつけて少しずつ飲み込めば、嚥下障害にはなりません。しっかり噛み砕いて、一回一回を確実に飲み込めば大丈夫です。

(ここでは詳しく説明しませんが、内科治療後の嚥下障害と外科治療後の嚥下障害は、タイプが全くの別物と感じます。)

 

3.2.頭板状筋

部位、働きは【首の筋肉の基本】を参考にしてください。かなり強い筋肉です。私の場合には片側で100単位を超えて打っても、病状によってはまだ足りなく感じる時もありました。ひし形に4箇所に分けて打つのが効くそうです。

ここはいくらボトックスを打っても大した副作用はありません。頭を持ち上げづらくなるので、遊んでいて激しく前に転んだ時に、顔を打って大怪我したことは何度かありましたが(^_^;)

 

3.3.僧帽筋

ポンと手を肩にのせただけでさわることが出来る広い筋肉です。先生は「猿でも打てる僧帽筋」とか言いながら治療しますが、そのぐらい簡単な位置にある肩の筋肉です。鎖骨の斜め後ろの方と肩の真ん中辺りとでは、張りが違う時もあります。症状の程度により2~4箇所に分けて注射してもらいました。多めに打つと、肩が下がってしまいます。

 

3.4.肩甲挙筋

背中の首の根元にある肩こりのツボみたいな筋肉。僧帽筋を親指でグイッと押しのけて、その奥のツルツルした所をめがけて打つ。とのことです。大抵は2箇所に分けて注射してもらいました。

 

3.5.頭半棘筋

首の後ろにあります。肩甲挙筋よりも背中側で上の方の浅い位置です。張っていることはあっても回旋にはほとんど影響していません。張りが少なくても、回旋とのバランスの関係で打ったりもします。

この筋肉は首を持ち上げる時にも動いています。後屈の場合には、ここへの治療が必須な患者もいるでしょう。

ここには頸静脈もあるそうで、実際に治療箇所からツーと血が出たこともありましたが、数分で止血できたので問題ありません。

2箇所に分けて注射します。

 

3.6.頸半棘筋

頭半棘筋と下頭斜筋の間ぐらいの高さから打つ、深い位置にある筋肉です。アゴが前に出るような患者の場合に治療すると効果があるように、自身の副作用から感じました。

 

3.7.広頸筋

首の前側です。鏡に向かって「い~( ̄皿 ̄)」と歯を食い縛ると、首の根元にスジになって末広がりに見える筋肉。幕みたいな薄い筋肉だそうで、ここが張っていても5単位程度の量を4箇所へ打てば効果があります。

 

3.8.下頭斜筋

首の後ろ、と言うよりも、頭の後ろの奥の位置にある小さな筋肉。最大でも60単位のボトックスしか用いることができません。ここへの筋注には、針筋電図などが必須と思います。打つのは1箇所です。

回旋のツボです。頭板状筋へいくら打っても回旋が治らないと言う人は、ここが原因の可能性もあります。

 

3.9.上頭斜筋

下頭斜筋の上にあります。ここは治療してもらったことは無いのですが、ここも針筋電図などが必須と思う位置です。

後屈のツボです。頭板状筋へいくら打っても後屈が治らないと言う人は、ここが原因の可能性もあります。

 

3.10.僧帽筋前縁

Googleの画像検索では見つけづらいですが、耳の下の方の首の根元にある筋肉です。

胸鎖乳突筋と似たような働きをするそうですが、異常が無ければちょっと首を回したぐらいでは動いていません。おもいっきり首を回すと動きます。

しかし常にここが張っている場合は、4箇所に分けてボトックスを打つと回旋が楽になります。前屈に影響している人もいるのかもしれません。

 

3.11.斜角筋

首を横に傾ける筋肉です。首の横。耳の下の方で僧帽筋前縁よりも上にあります。わりと奥にある感じがします。打つのは1箇所です。

この辺りには、手を動かす神経が通っていて(「腕神経叢」だそうです)、注射する位置によっては、感電した時のようなビリビリと凄いしびれを手に感じます。注射針を刺し直してもらえば、しびれはすぐに消えるので大丈夫です。

 

3.12.後頭直筋

ここは針筋電図で調べはしていただきましたが、いつも異常が無く、実際に筋注してもらったことがないので詳しくは語れません。が、回旋を治す目的で調べてもらったのでその作用もする筋肉のはずです。

 

 

3.13.その他

私は痙性斜頸の症状が強く出ているのに、針筋電図でどの筋肉を調べても異常が見つからなくなってしまいました。

外科医にお伺いしたところ、頸椎の骨と骨の間にはペン先程度の細~い筋肉がびっしりとくっついていて、そこへモグラたたきしていると、模型も使って詳しく教わりました。実際にその先生の手術で治ったので、そういうことだったのですね。

(手術して頂いたのは東京女子医大 機能神経外科。)

 

その頸椎周りの筋肉の不随意運動を、内科治療でやっつける話は聞きません。素人的には、そのあたりを狙って筋注すればボツリヌス毒素の筋膜の浸透効果でうまくいきそうな気がしますが、そうはいかないのでしょうね。。。

 

 

 

4.筋肉の抗体について

 

痙性斜頸の患者から、

「前回の治療よりも、今回の治療のほうが効きが悪い。先生から、筋肉が抗体してしまったのかもしれないと言われた。」

と、心配する声をよく聞きます。日本の法令を遵守した治療法なら、毎回最大量のボツリヌス毒素を用いた治療を何十回と繰り返しても、抗体は起きません。私が経験済みです。

もしそうなったら、それはジストニアがモグラたたきしてしまっただけです。

 抗体しているのなら、針筋電図で確認しても筋緊張は治まっていません。 逆に、針筋電図で調べた結果は異常がないのに症状があるのなら、狙っている位置とは別の筋肉が悪さしているだけです。

その先生には、悪さしている本当の筋肉を見つけていただきたく思います。

 

仮に抗体したとしても、ボツリヌス毒素はA型とB型の2種類がありますので、抗体が引くまでの期間は抗体していないほうの毒素を使えば済むのです。

 

 

 

5.治療費をより安く

 

異常針筋電図用の針は数千円だそうです。ボツリヌス毒素の値段に比べると圧倒的に安いですが、それでも通常の針よりも高価です。先に説明したボツリヌス毒素ともあわせ、

 針筋電図専用針 → 通常の針

 ボトックス   → ナーブロック

としてもらうよう先生にお願いすることで、経済的な負担を軽減できます。

 

針筋電図の検査時、注射針には専用の針でなく通常の針を用いても、筋肉の異常は調べられます。私の治療経験のうち、通常の針を用いたために正しい波形が得られなかったのは、説明した筋肉の中では頸半棘筋のみです。「先端で測れる針筋電図専用の針ではないので、そこへ届くまでの途中の筋肉のノイズを拾うから完全な波形ではない。」と先生から説明されました。しかし症状の状況から量配分を決めてその筋肉へ筋注して頂き、当該部位の治療の効果を得ていました。

 

 

 

6.最後に

 

痙性斜頸の治療は、まずは神経内科、そこで治らなかったら脳外科、の順です。

神経内科のボツリヌス治療で、最も多く毒素を使うのが、首の筋肉の基本となる胸鎖乳突筋と頭板状筋です。まずはそこへどう打つかを考えてから、残る分をどこへ使うかを、先生と考えます。基本の筋肉の他は、多く使ったとしても1筋あたり50単位ぐらいです。

 

内科治療で、100点まで治そうとしてはいけません。70点ぐらいまでで合格とするのが良いです。それは、私は100点を追求したあまりに、逃げ場を失ったジストニアが頸椎周りの筋肉へモグラたたきし、内科治療ではにっちもさっちも行かず手術をするはめになったからです。内科治療では、ジストニアの逃げ場を残しておくのが安心です。

私の場合だと、手術の結果は100点満点、手術の費用もボツリヌス療法のたったの数回分と高くなかったし、いうことなし! なのですが、脳の手術は誰もが成功するとは限らないので、脳をいじらずに済めばそのほうが良いかと思うのです。

なので、まずは内科治療、だめなら外科治療、とすすめています。外科治療だと安いし、手術の翌日にはキレイさっぱり治っちゃいましたが(^^;

 

話は戻って、70点ぐらいでほっとくと、忘れた頃に痙性斜頸は治るようです。そうした人は、私の周りに多くいます。

 皆さんも70点ぐらいを目指して、先生任せにはせずに自身でも打ち方を考えて、よく相談しながら治療しましょう。それで治療の効果を高めることが出来ます。(^o^)

(当時の私は95点ぐらいの治療の効果があったが、それがヤバかった、笑)

 

 

※これは一患者の過去の治療経験に基づく話です。筋注の投与量にはある程度の個人差があるでしょうし、現在ではもっと多くの筋肉が見つかっているかもしれません。

 

 このページについても、ジストニアの専門医により監修された内容となっておりますのでご安心ください。